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「死ねばいいのに」(京極 夏彦) [ファンタジー/ホラー/ミステリ]

iPodTouch を買ったので、今流行の電子書籍を試してみようと思った。で、iTunes Store で購入したのがこれである。NHKBS2の「週刊ブックレビュー」でも著者出演で紹介されて、興味を持っていたというのもある。

死ねばいいのに

死ねばいいのに


 電子版は900円だった。紙の本は1785円なので、ほぼ半額。妥当と言うべきなのか。しかし、こんなさほど長くもない小説が51.2MBもあるというのはどういう事だろう。表紙の画像以外にはテキストデータしか無いのに、である(いや、よく見直したら各章ごとの広告ビデオみたいなのが入っていた)。アプリ形式なので、ブラウズ機能も内蔵してるからその分増えるとしてもでかすぎると思う。まぁ、今時たいしたサイズでもないのだろうけれど。

 かなり凝った構成のミステリだ。主人公のフリーター・渡来健也が、殺された女・鹿島亜佐美に縁のある人たち6人に次々と会って会話を交わす、殆どその会話だけで成り立っている。
 話して回る相手は、亜佐美の不倫相手の上司、マンションの隣人、借金のカタに亜佐美を情婦にしたチンピラヤクザ、娘を売った母親、刑事、弁護士。会う目的は亜佐美がどういう人間だったかを知りたいということ。そして、それぞれの人に告げる決まった言葉が、タイトルの「死ねばいいのに」だ。
 最初このタイトルを聞いたときは、その不穏な言葉がまさか話している相手本人に向かって投げられるものとは想像出来なかった。こんな言葉は「あんな酷いヤツ、死ねばいいのに」とか、独り言あるいは内心で、または第三者に対して発するのが普通である。それをあろうことか面と向かって相手に告げているのである。しかも、それが無理乱暴ではなく、むしろ自然な流れから当然の帰結であるかのように発せられるのだ。
 そう、その展開が凄い。学歴もなく定職もない、口のきき方もなってないダメダメ人間っぽい健也の突然の訪問に驚き警戒し反感を覚えて拒絶しようとする人々が、一種のらりくらりとした話法を操る健也とだらだらと話しているうちにその内面に抱える不満や不安、愚痴や呪詛果ては居直りまでも垂れ流させられて、その挙句に一気に反転して健也からなされる鋭い批判の最後の言葉が、この「(あなた、そんなんだったら)死ねばいいのに」なのである。そして、読んでいるとそれがストンと胸に落ちるのだった。
 この会話のディテールというか、やり取りの流れが実になんともリアルである。話す方も聞く方も、真に身体からありのままに喋っているような。「ご都合主義」的な不自然さが全くない。勿論、各人が喋る言葉は演技、偏見、思い込み、自己欺瞞、自己正当化などがたくさん入っていて、それを一見愚鈍で不器用な健也がソクラテスの産婆術のごとく、隠された正体を暴き出すのだった。
 いやはや実にうまい! そして、オチに私は最後まで気づけなかった。完敗だ。こういうトリックはいわゆる「本格」物のそれとは違うのだが、仕掛けとしては実に面白い。それを筆先ひとつで現出させてしまう京極夏彦の筆力には恐れ入った。

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